遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

監修:九州大学病院別府病院 免疫・血液・代謝内科
堀内孝彦先生

ここでは、遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)とはどんな病気か、発症する原因やその仕組み、病態によって分類される3つのタイプなど、HAEの概要についてご紹介します。

HAEとは

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは遺伝する病気であり、「C1インヒビター(別名:C1インアクチベーター)」という物質が主な原因となります。体のいろいろな場所に突然腫れが起き、顔(くちびる、まぶた、舌など)、手足などの目に見える場所だけでなく、腸やのどなど目に見えない場所にも起こります。腫れる場所はいつも同じとは限りません。のどに腫れが起きたときは気道がふさがれてしまう場合もあり、命に関わることもあります。また、腫れは繰り返し起こり、週に数回起こる人もいれば、数ヵ月に1回、数年に1回しか起こらない人もいます1),2)
5万人に1人といわれるまれな病気で、多くは10歳代に発症するとされています1)。約4分の3は親から子への遺伝によるもの、残る約4分の1は突然変異によるものといわれています1),3)
日本のHAE患者さんの年齢は平均24.2歳、症状が認められてから診断されるまでの期間は平均13.8年であると報告されています3)

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは?

HAEの原因、発作の起きる仕組み

HAEの主な原因は、「C1インヒビターの不足・機能の低下」です。HAEの患者さんでは、C1インヒビターに関連する遺伝子の変異により、C1インヒビターの量が減っていたり、うまく機能しなかったりします。
C1インヒビターには、増えすぎると血管から水分を漏れ出させて腫れを起こすブラジキニンという物質の生成を抑える働きがあります。そのため、ストレスなどが引き金となってC1インヒビターによる抑制が効かなくなると、ブラジキニンが過剰に作られてしまい、腫れが起こります1),2)

遺伝性血管性浮腫(HAE)の原因、発作の起きる仕組み

(イメージ図)

HAEのタイプ(Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型)

HAEは、その病態により3つのタイプ(Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型)に分類されます1)
Ⅰ型は、C1インヒビターの遺伝子に変異があり、C1インヒビターの産生量が減り、機能も低下しています1)。HAEの約85%を占めます1)
Ⅱ型もC1インヒビターの遺伝子に変異があり、C1インヒビターの産生量は正常ですが、機能が低下しています1)。HAEの約15%を占めます1)
Ⅲ型は、C1インヒビターの遺伝子には変異がなく、C1インヒビターの産生量や機能は正常で、非常にまれなタイプです。C1インヒビター以外の原因で生じます。原因となる遺伝子異常がいくつか見つかってきていますが、原因がわからない場合が多く、詳しいことはまだ不明です。女性に多く発症します1)

HAEの3つのタイプ 1)

遺伝性血管性浮腫(HAE)の3つのタイプ

HAEのなりたち

遺伝性に限らない血管性浮腫そのものについては、19世紀後半にドイツの医師クインケによって見いだされており、「クインケ浮腫」として広く知られています。このうち遺伝性が明らかなものとして区別されたのがHAEで、カナダ生まれで当時アメリカの大学に在籍していた医師のオスラーによって1888年に初めて報告されました4),5)。当時は原因が明らかになっていませんでしたが、1963年にC1インヒビターの機能低下であることが判明しました4)。2000年代になると、C1インヒビターの遺伝子に異常のないHAEⅢ型の存在が認められ、近年では複数の遺伝子異常が次々と発見されており、病態の解明、治療法の開発が進められています1),4)

1)大澤勲 編:難病 遺伝性血管性浮腫(HAE). 医薬ジャーナル社. 2016.

2)Wedner HJ: Allergy Asthma Proc 2020; 41(Suppl 1): S14-S17.

3)Ohsawa I et al: Ann Allergy Asthma Immunol 2015;114(6): 492-498.

4)堀内孝彦 他:日本補体学会学会誌「補体」57(1): 3-22, 2020

5)Osler W: Am J Med Sci 1888; 95: 362-367.

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