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ライフステージに応じた⾎友病のつきあい⽅定期補充療法について

監修

静岡県立こども病院 血液凝固科 小倉 妙美 先生

「定期補充療法」を行うことで、出血を予防し、出血の不安なく過ごすことができます。

血友病の治療は、出血をできるだけ早く発見し対処することが基本ですが、定期的に血液凝固因子製剤を注射する「定期補充療法」を行うことで、出血を未然に防ぐことも可能です。

血液凝固因子製剤を注射した直後は凝固因子の量がとても多くなりますが、やがて少しずつ減っていきます。注射から数日がたって凝固因子量が少なくなった時点で、再び補充を行い、一定以上の凝固因子活性値を保つようにするのが定期補充療法の考え方です。

常に凝固因子の量を一定以上にしておくことで、重大な出血や「目に見えない出血」から身体を守り、いつ起こるかわからない出血に対する不安や緊張を和らげることができます。

規則的に凝固因子製剤を注射したときの凝固因子活性の推移

規則的に凝固因子製剤を注射したときの凝固因子活性の推移

注射の間隔や必要な量は、血友病の重症度や製剤の種類、年齢や生活スタイル、日々の活動量などによって異なります。

参考)インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン: 2013年改訂版(日本血栓止血学会)

定期補充療法は、2歳未満
または最初の関節内出血後すぐの開始が理想です。

定期補充療法の目的は、重大な出血を未然に防ぐことと、関節内出血のように障害が残るリスクが高い出血を予防して、生涯にわたって血友病でない人と変わらない生活を維持することです。そのためには、早期に開始することが大切。重症の患者さんの場合は、2歳未満あるいは最初の関節内出血後(2回目の関節内出血以前)に始めることが推奨されています。

しかし、小さなお子さんは注射が難しいのに加えて、血友病Aであれば週に1~3回、血友病Bであれば2週に1回~週に2回の頻度で注射を行うことに親御さんが躊躇されることもあります。

少ない頻度から徐々に注射の回数を増やしていく方法や、最近では、効果が長時間続き注射の回数を減らすことができる製剤もあるので、主治医とよく相談して焦らずに決めていきましょう。

※注射の頻度は、血友病の種類や重症度、製剤、年齢、身体活動の状況などにより異なります。

定期補充療法の開始時期

2歳未満の重症血友病患者さんのうち、定期補充療法を行っている人の割合は、血友病Aで75.6%(34/45人)、血友病Bで70.0%(7/10人)と、0~2歳で行っている人が多かったことが報告されています(血液凝固異常症全国調査令和元年度報告書)。

血友病Aの重症度別の定期補充療法開始年齢の分布
血友病Bの重症度別の定期補充療法開始年齢の分布

血液凝固異常症全国調査 令和元年度報告書(公益財団法人エイズ予防財団)より作成​

定期補充療法を開始して良かったと思うところ

定期補充療法を開始して良かったと思うところのイメージ図

出典)国立研究開発法人日本医療研究開発機構・感染症実用化研究事業・エイズ対策実用化研究事業「血液凝固異常症のQOLに関する研究」平成28年度調査報告書(著者:竹谷英之、血液凝固異常症QOL 調査委員会)

将来、お子さんが自己管理できるようになるためには、幼い頃からの習慣づけが大事。

定期補充療法を行う場合、初めは主治医のいる病院に通って注射を受けますが、お子さんが少し大きくなると、ご家庭でご家族が注射をする「家庭輸注」ができるようになります。そして、小学生の高学年ぐらいになると、お子さん自身が医療機関で注射の手技を学び、「自己注射」に挑戦します。家庭輸注や自己注射を導入すると、受診による生活の制限が減ります。

しかし、お子さんが成人して自分の人生を歩んでいくときに、自己管理は必ず必要になります。誰でも、すぐに自己注射や健康の自己管理ができるようにはなりませんが、幼い頃から習慣づけていれば、大人になってからも当然のように正しい注射方法や注意を守ることができるのです。

自己注射・自己管理ができるようになるためのステップ

家庭で注射する際にお子さんに役割を与え、少しずつ役割を増やし、定期補充療法に主体的に関わる習慣をつけていきましょう。

自己注射・自己管理ができるようになるためのステップの図

お父さんにもできることはたくさんあります

お父さん血友病でなくてもお子さんのお世話はお母さんが中心になることが多く、血友病のお子さんの通院、家庭での注射、日常生活への配慮もお母さんの役割が大きくなりがちです。けれど、最近はお父さんが受診に付き添ったり、家庭での注射に挑戦されることが増えてきました。病気や治療、出血時の対処法についてしっかり理解したり、お母さんが行う家庭での注射をサポートするだけでも、お母さんとお子さんの気持ちはぐんと楽になります。
今後、お子さんが成長していく過程では、男親にしかできないアドバイスも出てくるかもしれません。お子さんとの信頼関係を強めるためにも、どうか、積極的に治療に関わってください。