監修
聖マリアンナ医科大学 小児科学 講師 長江千愛先生十分な凝固因子の量を保つための注射の量と回数は、年齢や生活スタイルに合わせて。
血液凝固因子製剤を注射した直後は凝固因子の量がとても多くなりますが、やがて少しずつ減っていきます。注射から数日がたって凝固因子量が少なくなった時点で、再び、補充を行い、一定以上の凝固因子活性値を保つようにするのが定期補充療法の考え方です。
目標とする凝固因子活性は、年齢や生活スタイル、活動量などによって異なるので、注射の間隔も量も人それぞれです。いつもよりたくさん活動するときには、予備的補充療法も行うことができますから、お子さんの生活の様子や行事の予定などを医師に伝えてください。
確実に関節を守りつつ、負担の少ない輸注スケジュールを医師と一緒に考えましょう。
規則的に凝固因子製剤を注射したときの凝固因子活性の推移
注射の間隔や必要な量は、血友病の重症度や製剤の種類、年齢や生活スタイル、日々の活動量などによって異なります。
定期的な注射は負担ではありますが、さまざまな支援もあります。少しずつ取り組んでいきましょう!
定期補充療法では、血友病Aであれば週に1~3回、血友病Bであれば2週に1回または週に1~2回、血液凝固因子製剤を注射します※。頻繁に注射することは、お子さんにとってもご家族にとっても大変なことです。また、幼稚園、小学校に通うようになると、頻繁に病院に通うことも難しくなります。そこで、最近では、効果が長時間続き注射の回数を減らすことができる製剤も使うことができるようになりました。
また、血友病の治療では、凝固因子製剤の定期的な注射や出血時の注射などを自宅で行う家庭療法が認められています。家庭療法を行うには、医師や看護師から十分な指導と訓練を受ける必要がありますが、出血時にはすみやかに補充療法ができ、通院しなくても定期的な補充療法が行えます。
※注射の頻度は、血友病の種類や重症度、製剤、年齢、身体活動の状況などにより異なります。
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家庭療法
在宅で、ご家族またはお子さん本人が注射を行うこと
本来は医師、看護師でなければ注射をしてはいけませんが、血友病をはじめ一部の病気に限って認められている行為です。医師や看護師から十分な指導と訓練を受け、医師の許可を得る必要があります。
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自己注射
お子さん本人が自分に注射すること
10歳前後で自己注射に挑戦することが多くなっています。医師や看護師からの指導はもちろん、練習のための入院や、血友病患者さんが集まるサマーキャンプで自己注射の必要性や知識、技術を学ぶことができます。
覚えておいてほしいこと
- 家庭療法、そして自己注射への挑戦を始めるときは、医師や看護師が何度でも指導しますので、疑問や不安があれば、全部伝えてください。
- お子さんは長い人生を血友病とともに生きていくわけですから、お母さんやお父さんがすべてひとりで抱え込んではいけません。必ず周囲に支えてくれる人がいるはずです。
コラムみんなどうしてる?定期補充療法
実際のところ、定期補充療法をみんなはどうしているのでしょうか。「血液凝固異常症全国調査」の令和元年度報告書を見てみると、2歳~6歳未満で定期補充療法を行っていたのは、血友病Aでは重症で94.0%(94/100人)、重症以外で25.0%(8/32人)、血友病Bでは重症で96.0%(24/25人) 、重症以外で23.1%(3/13人)でした。近年、幼少期に定期補充療法を開始するのが一般的になっていることは、2歳未満のデータに表れています(図)。
血液凝固異常症全国調査 令和元年度報告書(公益財団法人エイズ予防財団)より作成
また、「血液凝固異常症のQOLに関する研究」の平成28年度調査報告書を見てみると、 定期補充療法のメリットとしては、「出血に対する不安が減った」「社会生活が安定した」などの意見が多くあげられました。ただ、関節症が進行した後に始めた場合、メリットを感じにくいことも、この調査で明らかになりました(表)。やはり、関節症が起きる前の早い段階から定期補充療法を始めることが重要であることがわかります。学生の患者さんに、体育の授業に参加しているかを聞いた設問では、「すべて参加している」と答えた人が79%と多数を占めました。「種目により参加している」が16%、「まったく参加していない」という回答はわずか5%です(図)。平成19年に行った調査では、「すべて参加」が45%、「種目により参加」が49%でしたので、約10年間で、体育の授業への参加状況が大きく改善していることがわかります。
これは、定期補充療法が普及し、安心してスポーツを楽しめること、さらに、見学せずに参加すべきという考えが広まった成果といえます。
また、体育の授業に限らず、さまざまなスポーツに挑戦する患者さんも増えています。水泳などの血友病患者さんに奨励される種目はもちろん、若干の注意が必要な種目(サッカー、野球、バレーボールなど)を楽しんでいる患者さんも珍しくなくなりました。定期補充療法の普及によって、患者さんの生活、人生の選択の幅が大きく広がっています。
国立研究開発法人日本医療研究開発機構・感染症実用化研究事業・エイズ対策実用化研究事業「血液凝固異常症のQOLに関する研究」 平成 28年度調査報告書(著者:竹谷英之、血液凝固異常症 QOL 調査委員会)