自分の気持ちを
うまく相手に伝える
スキル
解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生
お願いすることや、「やめて」と断ることは、むずかしいことです。
うまく伝えられず相手をキズつけてしまったり、何も言えずガマンしたりすることは、大人でもよくあります。
でも心理学には、相手の気持ちを大事にしながら自分の気持ちをうまく伝えるためのスキルもあります。
今回は、自分の気持ちをうまく相手に伝えるスキルのお話です。
自分の気持ちと相手の気持ちの両方を大事にした話し方を、心理学では「アサーション」と言います。
まず、悪い会話と良い会話の例からアサーションを考えていきましょう。
それから、アサーションの具体的なスキルをお話していきます。
悪い会話と良い会話の例を考えるときに、アニメのキャラクターはとても参考になります。
あなたがよく見るアニメに出てくる、他の人たちからあまり好かれていないキャラクターを思い出してください。
どんなキャラクターがいますか?
自分のイライラをすっきりさせるために、友だちに悪口を言う。
自分がほしいものを友だちが持っているときに、「貸せよ!」と言って取り上げる。
そんなキャラクターはいませんか?
このキャラクターがきらわれる理由の1つは、自分の気持ちだけを大事にして、相手の気持ちを大事にしていないからです。
このままだと、友だちにきらわれて一人ぼっちになってしまうでしょう。
反対に、「相手がおこるんじゃないかな…」と心配して、自分の言いたいことが言えない。
これも悪い会話です。
相手を大事にしていますが、自分を大事にしていません。
このままだと、しんどくなったり、ストレスから頭がいたくなったりしてしまいます。
今度は、たくさんの人から好かれているキャラクターを思い出してください。
たぶん、そのキャラクターは他の人をキズつけたり、悪口を言ったりしていないと思います。
そして、自分の気持ちも大事にして、自分の考えをしっかり相手に伝えていませんか。
自分だけを大事にする人、相手だけを大事にする人、自分も相手も大事にする人それぞれの会話を見てみましょう。
友だちが「このゲームしたい!」と言ったけど、あなたは別のゲームをしたいという場面をイメージしてください。
それぞれ、何と言うでしょうか?
自分だけを大事にする人は「イヤだ。こっちのゲームがいい!」と言って、自分がやりたいゲームだけをするでしょう。これではケンカになるかもしれません。
反対に、相手だけを大事にする人は「うん、いいよ。」と言って、相手の選んだゲームをするでしょう。
でも、本当に自分がしたかったゲームはできないので、モヤモヤした気持ちになると思います。
自分も相手も大事にする人は、どうするでしょうか?
例えば、次のように言ったら公平な順番で2つのゲームで遊べるので、自分も相手もイヤな気持ちになりにくいです。
「そのゲームもおもしろそうだね。でも、ボクはこっちのゲームをしてみたいな。どっちのゲームからするか、じゃんけんで決める?」
このように、自分の気持ちと相手の気持ちの両方を大事にするアサーション。
次に、アサーションな会話を行うための3つのスキルのお話をします。
あなたが「もう病院に行きたくない」と言ったら、お母さんがAかBの返事をしたとします。
A病院に行かないと(あなたは)ダメよ
Bあなたに病院へ行ってほしいと(わたしは)思っているの
「病院に行く」ことについては、AとBは同じです。
でもAの言葉は、あなたのつらい気持ちをお母さんは無視しているような気がしませんか?
反対にBは、お母さんがあなたのことを心配している感じがするかもしれません。
このように、「Youメッセージ(あなたは~しなさい)」ではなく「Iメッセージ(わたしは~してほしい)」を使うと、トゲがなくなります。
病院の先生がAかBのように言ったとします。
A「夜に自己注射することがあるんだってね。どうして?」
B「夜に自己注射することがあるんだってね。どうして?
朝はバタバタして大変かな?」
どちらのほうが、おこっていると感じますか?
たぶん、Aのほうがおこっている気がすると思います。
「どうして?」や「なんで?」などの言葉はおこっていると思われやすいからです。
でも、Bのように理由を知りたいだけだと分かると、おこっている感じはあまりしないと思います。
あなたが「どうして?」を使う場合も、理由を知りたいだけということや、おこっていないことを言葉で伝えるとよいでしょう。
友だちが優しくしてくれると、その友だちのことをもっと好きになって、あなたもその友だちに優しくしてあげたくなりますよね。
このお返しを、心理学では「返報性の原理(へんぽうせいのげんり)」と言います。
小学校で聞いたふわふわ言葉とチクチク言葉。
自分の気持ちを素直に伝える。イジワルを言ってしまったときにはすぐに謝る。
当たり前と思うかもしれませんが、これも実は心理学の考えに合っているのです。
今回のテーマは、自分の気持ちをうまく相手に伝えることでした。
家族や友だち、学校の先生、病院の先生やかんごしさん、だれにでも使えるスキルです。
ぜひ、試してみてくださいね。
言葉だけではなく、手や首、体などの動きでも相手に自分の考えを伝えることができるよ。
例えば、先生の話を聞いているときにうなずくよね。
これが、ボディランゲージ。
ボディランゲージは国によって意味が変わるよ。
日本やアメリカでは、首をタテにふること、つまりうなずきが「はい」となるよね。
でも、インドや、ヨーグルトで有名なブルガリアという国では、首をヨコにふったら「はい」となるんだって。
とても不思議だね。