小さな成功を
積み重ねて
新しい行動を
身に付ける方法
解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生
スマホやゲームをあまりせず、夜は早くねる。
宿題だけではなく予習もする。
自己注射の日や通院日を自分で覚える。
このような体や頭に良さそうな生活は、少しがんばればできそうに思えますが、実際にやろうとするとなかなか難しいものです。
こんな言葉があります。
行動を変えるには心、つまり認知(物事の感じ方や考え方)をまず変えなければなりません。
認知が行動を変え、ゆくゆくはどんなふうに生きるか、運命を変えるのです。
この言葉は、野球界で「ゴジラ」と呼ばれた松井秀喜選手が高校生のころに野球部の先生から教えられた言葉です。
松井選手はこの言葉を大切にして、モットーとしていました。
元は、アメリカの心理学者のウィリアム・ジェームズの言葉と言われたり、ヒンズー教の言葉とも、非暴力主義者ガンジーの言葉とも言われたりしていますが、はっきりしたことは分かっていないようです。
ですが、いろいろな分野の偉人たちが口にするほど、本当に大事なことを述べた言葉だと言えると思います。
今回は、小さな成功を積み重ねて新しい行動を身に付ける方法 についてのお話です。
松井選手のモットーのように、行動を変える・身に付ける方法として心・認知を変える方法を説明します。
これからお話する方法は、毎日ほんの数分だけあることをしてもらうという簡単なものです。
でも効果があるので、ぜひ試してみてくださいね。
心・認知を変える方法とは、セリグマン博士の「3つの良いこと探し(Three Good Things)」です。
「3つの良いこと探し」では、夜にねる前にその日あった良いことを3つ思い出してノートに書くだけです(頭で思いうかべるだけではなく、実際に書き出してみてくださいね)。
良いことは何でも構いません。
次のように本当にちょっとしたことでもよいです。
などなど
なかなか思いうかばなければ、最初のうちはお父さんやお母さんと話しながら良いことを探すのもよいですね。
とても簡単そうに見えますが、いざやってみると、意外と良いことが見つからなくて困った人が多いと思います。
これには理由があります。
例えば学校でイヤなことがあると、帰ってからもずっとそれが気になって、つい思い出して考えたりしますよね。
それは、もうイヤなことをされたくないという本能のようなものが人間にはあるからです。
反対に、良いことはすぐに忘れてしまいます。
良いことは放っておいても問題がないからですね。
だから、良いこと探しは難しいのです。
「3つの良いこと探し」を1週間ぐらい続けると、いつもは意識されにくい良いことに注意を向けることができ、認知が良い方向に変化していきます。
いくつかの研究によると、「3つの良いこと探し」を1週間ほど続けたら幸せな気持ちが高まったり、あまり落ちこんだ気持ちにならなくなったりしたそうです。
しかも、その効果が半年ぐらい続いた研究もあります。
最初は大変かもしれませんが、試しにがんばってください。
「良いこと探し」に慣れてきたら、ステップアップとして、自分がしたこと、自分がかかわった出来事で良いことを見つけられるとよいですね。
第3回「自己肯定感の高め方」でお話したように、自分が原因で生じた成功体験(良いこと)を多く経験できるほど、自己肯定感(「ありのままの自分」を好きだという感情)を高めることができるからです。
今回のテーマは、小さな成功を積み重ねて新しい行動を身に付ける方法でした。
認知が行動を変え、ゆくゆくは運命を変える。
まずは1週間だけでよいので、「3つの良いこと探し」をしてみてくださいね。
ヘレン・ケラーは1才のときにかかった病気のせいで、目と耳が聞こえなくなったんだ。
言葉を覚えられないから、話すこともできなかったよ。
子どものころの彼女にとって、世界は真っ暗だったかもしれない。
でも、ヘレン・ケラーの手に水をかけながら指の文字で「water」とサリヴァン先生が教えてくれたとき。
ヘレン・ケラーの世界は強い光で照らされた。
その後、ヘレン・ケラーは大学で学び、障害者の教育・福祉に取り組んだ。
ヘレン・ケラーは言うよ。
「障がいは不便です。しかし、不幸ではありません」
幸せにつながるのは、周りの人からのサポートや希望、そして自分の努力なんだね。