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患者さんのココロが前向きになる心理学なんでこんな
気持ちになるの?

ステージ5-2病気との共生と自己実現

自分らしく生きるとは?

解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生

ランニングする老夫婦の写真

若いあなたには早すぎる質問かもしれませんが、将来はどんなおじいちゃん・おばあちゃんになりたいですか?
年を取っていても、背筋がピンとした元気な人?

それとも、仙人みたいに若い人に知恵を与える人?
そんな歳のとり方はとても素敵ですね。
でも、おじいちゃん・おばあちゃんから「腰がいたい」「スマホの使い方を覚えられない」などと聞くと、歳とることに少し否定的なイメージを持ってしまうかもしれません。
しかし、歳をとって体が動きにくくなったり、物忘れをしたりしても、幸せに生きることができないわけではありません。

今回は、自分らしく生きることについてのお話です。

幸せな歳とり方は「サクセスフル・エイジング」と呼ばれ、自分らしく幸せに生きるうえで大切です。
サクセスフル・エイジングであるかは、

  • ①身体・健康面
  • ②心理・精神面
  • ③社会・環境面

から判断されます。

図:研究者の定義するサクセスフル・エイジングの構成要素​

研究者の定義する
サクセスフル・エイジングの構成要素​

①身体・健康面

しっかり歩くことができる、病気がないという状態は健康ですね。
でも、サクセスフル・エイジング、つまり幸せであるとは限りません。

病気がなく、つえを使わなくても歩けるけど「若いころと比べて体力が落ちたなぁ」と落ち込んでいたら?
これでは、幸せとは言えないですよね。
反対に、病気があるから老人ホームで生活していたとしても、「毎日みんなと生活できて楽しい!」と思えていたら幸せだと思います。

会話を楽しむ高齢者男性2人のイラスト

このように、自分なりに体の状態と上手く向き合えていること、良い健康習慣を維持できていることなどがサクセスフル・エイジングでは大切です。
自分にできる範囲で体を動かして日々を楽しめればよいのです。

②心理・精神面

歳をとるなかで、どうしても何かができなくなったり、何かを失ったりすることはあります。
特に私たちの記憶力、その中でも例えば買い物で買う物を覚えるときになど使われる短期記憶と呼ばれる能力は、歳をとるとともに衰えていきます。
ですが一方で、語彙能力(たくさん言葉を知っていて、その言葉を適切に使いこなす力)や日常生活の問題を解決する能力は向上し続けることが知られています。

買い物のメモのイラスト

できることは自分でする、できなくなったら人や道具の力を借りる。

そんなふうにバランスを保ちながら、いまの自分の現実をそのままに、あるがままに受け入れようという態度がサクセスフル・エイジングにかかわってきます。

③社会・環境面

公民館のチラシにあるように、高齢者向けのイベントや教室はたくさん行われています。
新しいことを学ぶことは、脳への良い刺激です。
でもそれ以上に、会った人と何気ない会話を楽しむということが、社会・環境面のサクセスフル・エイジングでは大切です。
このように、イベントなどに積極的に参加し、充実感や新しい出会いなどを得ることが、サクセスフル・エイジングにつながると言えます。

地域ボランティアに参加する高齢者男性のイラスト

また、社会に出て役割を持つことは、自分の価値を再確認できるので幸福感を高めます。
あなたの周りには、学童クラブの高齢の先生や、地域のボランティアの方がいらっしゃいますか。
高齢の先生からは、昔遊びのコツ、地域の昔のお話をしてもらったりできます。また、地域のボランティアの方々は、登下校を見守ってくれたり、公園などをきれいにしてくれたりします。

このような出来事は、あなたのためになるだけではなく、実は相手にとっても「自分は地域の役に立てている」という充実感につながっているものです。

イベントへの参加や、社会に出て役割を持つことは、人とのつながりを強める・広げるという点でもサクセスフル・エイジングに貢献しています。
人間はひとりでは生きていけません。
他の人と同じ時間を過ごすことで、楽しみを感じることができたり、孤独感を感じずにすみます。

今回のテーマは、自分らしく生きるとは?でした。

そのためにサクセルフル・エイジングのための3つ側面について紹介しましたが、
「これがサクセスフル・エイジングだ」という決まったものがあるわけではありません。
それまでの生き方がみんな違うように、サクセスフル・エイジングのあり方もみんな違います。
歳をとることによって起きる変化に向かい合い、時に悲しみつつも現実を否定しない。
いまの現実を受け入れて、その中で楽しもうとする。

そんな姿勢が大切だと言えるでしょう。

高齢になると、「自分の人生は満足できるものだっただろうか?」と
自分に問いかけることが多くなると思います。
「完ぺきに幸せだった!」と断言できれば良いですが、そういう人生はなかなか送れないものです。
だからといって、いくつかのイヤな出来事のせいで
「良くない人生だった」と絶望するのは、もったいないと言えます。

「良いことも悪いこともあったけれど、それなりに楽しかったから、自分の人生に満足している」
イヤな出来事ともそれなりに向き合いつつ、いまの自分が抱ける幸せや喜びにしっかり目を向けることで、
あなたなりのサクセスフル・エイジングを送れると思います。

今回はすごく先のお話だったので、実感がわかないかもしれませんね。
イメージをふくらませるためにも、身近にいる高齢の方に会ったら、
「幸せな年の取り方ってどんな感じ?」と、ぜひ聞いてみてください。

コラム「おばあちゃんの知恵袋」 コラム「おばあちゃんの知恵袋」

桃太郎の話が都道府県ごとに違うって知ってる?
川から流れた桃から生まれた桃太郎がいれば、タンスの中にあった桃から生まれた桃太郎もいるんだって。

同じように、姥捨山(うばすてやま)という物語もいくつかあるんだ。

おばあさんを山に捨てたという悲しい話もあれば、実はおばあさんをやっぱり連れ帰った話もあるよ。

連れ帰った話では、その後おばあさんの知恵で数々のトラブルを解決して、ハッピーエンドを迎えたんだって。

年を取るって悪いイメージがあるかもしれないけど、長年生きてきた知恵でハッピーになれることもあるんだね。

おばあさんを背負う男性のイラスト
2023年12月作成
JPN-AFS-1636