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ライフステージに応じた⾎友病のつきあい⽅血友病治療のゴール

監修

聖マリアンナ医科大学 小児科学 講師 長江千愛先生

血友病治療のゴールは、出血を防いで関節を守ること。そのために、定期補充療法で「目に見えない出血」を防ぎます。

血友病の治療は、出血したときに、早く止血するためだけのものだと思っていませんか?なぜ、出血していないのに注射をするという、定期補充療法を行うのでしょうか?

出血には「目に見える出血」だけでなく、関節や筋肉など、身体の中で起こる「目に見えない出血」があります。関節の中で起こる出血は関節症の原因となり、出血を繰り返して関節症になると日常生活にさまざまな支障が出てしまいます。

定期補充療法の目的は、関節の中で起こる(目には見えない)出血を防ぐこと。そして、関節内出血が原因の関節症を、生涯にわたって防ぐことなのです。

繰り返す出血による関節の変化(血友病性関節症)

関節内出血
関節内出血

骨と骨との間には、自由に曲げ伸ばしができるように関節腔(かんせつくう)と呼ばれるすき間があります。関節腔は滑膜(かつまく)におおわれて袋状になっています。関節内出血は、この関節腔に出血します。

慢性滑膜炎
慢性滑膜炎

関節内出血を繰り返すと、滑膜がだんだん厚くなり、関節全体がブヨブヨした状態になります。それに伴って関節の動きも悪くなり、関節を曲げにくい・伸ばしにくい状態になることがあります。

血友病性関節症
血友病性関節症

さらに進行すると、関節が破壊されて変形し、軟骨どうしがぶつかって強い痛みを生じる、関節の動く範囲が狭くなる(拘縮(こうしゅく))、最後には関節が動かなくなること(強直(きょうちょく))もあります。

関節内出血を予防して、関節症を引き起こす悪循環を生じさせないことが大切です。

誰でも身体を動かすと関節に負担がかかり、関節内に出血することもあります。血液凝固因子が不足していると、この血がすぐに止まらず、関節に悪い影響を及ぼしてしまうのです。

たった1度の出血で、すべてが手遅れになって、関節に大きなダメージがあるというわけではありませんが、出血にできるだけ早く気づき、止血することが大切です。また、止血後の歩行訓練やリハビリテーションなど「すぐに動ける環境作り」も不可欠です。

しかし、身体の仕組みを考えても、気持ちの問題からみても、出血経験は限りなくゼロに近く少ないほうがよいのです。

血友病性関節症を引き起こす悪循環

血友病性関節症

参考)瀧正志ほか: 血友病 Aにおける下肢の左右不均衝―その原因と対策―第 27回日本臨床血液学会(抄録), 1985.

関節内出血がなければ血友病性関節症になることはありません。しかし、自覚症状がない出血で進行していることも。

関節内出血が1度もないのに血友病性関節症になることはありません。

しかし、出血が起こっていたのに、その自覚症状がなく経過して関節症になることは考えられます。関節内出血の症状には痛みや腫れがあります。これらの症状が出現する前兆として「ムズムズする」「なんとなく重い感じがする」などの違和感を自覚することも多いようです。

それでも、明らかな出血症状がないこともありますから、定期補充療法で常に関節内出血を予防しておくことが大切です。

定期補充療法をしっかり実践している患者さんでも、関節内出血を100%防げるとは限りませんので、定期的に関節を検査することをお勧めします。血友病に詳しい整形外科の医師に関節の状態を診てもらったり、画像検査で、関節症の徴候を早めにつかむことができます。念には念を入れて、関節症を未然に防ぎましょう。

関節内出血の主な部位

関節内出血の主な部位

参考)世界血友病連盟「血友病医療のガイドライン」(2005)

症状

  • いつもと違う感じ
  • ムズムズする
  • 動きがいつもと違う
  • 痛み、腫れ、熱っぽい など
予防
定期補充療法
凝固因子の量を一定レベル以上に保っておく
適切な運動
関節の周りの筋力をつける
装具の利用
サポーターや靴の中のインソールなどで、関節の負担を減らす
治療
速やかな補充療法
できるだけ早く出血を止める
RICE(ライス)
R:安静・I:冷却・C:圧迫・E:挙上(出血部位を高い位置に保つ)

腫れや痛みが治まったら

リハビリテーション
できるだけ早期から、できる範囲でゆっくりと関節を動かしていく

いつもと違うお子さんの表情やしぐさにも注意

いつもと違うお子さんの表情やしぐさ目に見えない関節内の出血。一般的な自覚症状は、ムズムズしたり、重く感じたりするといわれていますが、まだ小さなお子さんは、それを言葉で表現したり、自分から親に伝えることができません。まずは、いつもと違う表情や動作に気づいてあげる必要があります。親が気づいて声をかけることで、お子さんも意識ができて、親に伝えられるようになります。