監修
久留米大学医学部 小児科学教室 松尾 陽子 先生保因者の妊娠・出産時の注意点
保因者の妊娠・出産は、保因者自身と生まれてくる赤ちゃんの両方に注意が必要です。
最近では、学会などの働きかけにより、医療者側での保因者の妊娠・出産を安全かつ適切に管理する環境づくりも進んでいます。安心して出産に臨むために、リスクを知り、備えを万全にしておきましょう。
①保因者自身の出血リスク
自然分娩でも帝王切開でも出産は出血を伴います。凝固因子活性(出血を止める能力)が低い保因者の方には、出血に対する配慮や備えが必要となる場合があります。
②生まれてくる赤ちゃんの出血リスク
重症の血友病の赤ちゃんは、血友病でない赤ちゃんと比べて、出生時の頭蓋内出血リスクが高いことがわかっています。頭蓋内出血による重篤な後遺症を避けるためにも、自分が保因者であることを医療者に伝え、産科医・血友病専門医とよく相談し、適切な分娩方法を選択することが大切です。
保因者であることを産科医に伝える
妊娠したら、産科医に自分が保因者であることを伝えましょう。推定保因者の方も、保因者診断を受けていない方も、保因者の可能性があることを必ず伝えてください。伝えないでおくことにメリットはまったくありません。
血友病に詳しい産科医は少ないので、可能であれば血友病の診療ができる病院の産科に通うことをお勧めします。
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妊娠期の凝固因子活性
女性の身体には、出産が近づくと血液凝固因子を増やして出血に備える仕組みがあります。
血友病Aの保因者の多くは、妊娠期間中に血液凝固因子が保因者でない女性とほぼ同レベルまで増えることがわかっています。しかし、血友病Bの場合は、血液凝固因子の増加がみられません*。
凝固因子活性値がかなり低い場合、出産に際して予防的に凝固因子製剤を投与することがあります。
血友病Aでも血友病Bでも、凝固因子活性には個人差がありますので、産科医と相談して定期的に凝固因子活性を測定しておくことが大切です。*Kadir R A et a l. B r J O bstet G ynaecol. 1997. 104:803-810
出産時の注意
分娩時に心配なのは、赤ちゃんが血友病だった場合の頭蓋内出血です。頭蓋内出血のために重篤な後遺症が残ってしまうこともあります。
保因者であるからといって、必ずしも帝王切開分娩を選択する決まりはありません。血友病であっても、経膣分娩で元気に生まれてくる赤ちゃんもいます。しかし、お産が長引くなどして赤ちゃんに負担がかかり危険な場合に行われる吸引分娩や鉗子分娩は、血友病の赤ちゃんにとっては頭蓋内出血のリスクがあるため、このような分娩方法が必要となる前に、帝王切開に切り替える判断が下されます。
分娩方法については、主治医とよく相談して、納得した方法を選択するようにしてください。
避けるべき分娩方法
保因者の出産後の注意
女性の身体には出産に備えて血液凝固因子を増やす仕組みがありますが、増えた凝固因子は出産後7日から10日ほどで元のレベルに戻ります*。元々の凝固因子活性が低い保因者の場合、このころに出血を起こすことがあります。すでに退院していることが多い時期ですので、痛みや出血など気になる症状があれば速やかに出産した病院に相談、受診してください。
*西田恭治ほか. 産科と婦人科. 2 013. 8 0:40-46
生まれた赤ちゃんへの対処
男児の場合は、すぐに血友病かどうかの血液検査を行います。血友病のタイプや重症度によっては、出生後すぐの検査では確定診断ができずに再検査が必要となる場合もあります。