自己肯定感の
高め方
解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生
いきなりですが、あなたは自分のことが好きですか?
「自分のこと大好き!」とすぐに言える人もいれば、そうではない人もいると思います。
今度は、あなたには苦手なことはありますか?
例えば、走るのがおそかったり、漢字を覚えるのが苦手だったり。
また、病院に通わないといけないように、血友病のせいで友だちとは少しちがう生活をしないといけないこともあると思います。
そういった苦手なものや、病気のようにどうしようもないものがあっても、自分のことを好きと言えますか?
こう考えると、「ボクは自分のことが好き」と素直に言えないかもしれません。
でも、苦手なことやどうしようもないものが自分の中にあることは、とても当たり前のことです。
足のおそい人が速く走る練習をするように、苦手なことをなくす努力は大切なことでしょう。
でも、「『足のおそい自分』」だっていいじゃないか」と思えることも、同じくらい大切なことです。
得意なことや苦手なことを全部含む「ありのままの自分」を好きだという感情。
これを心理学では自己肯定感と言います。
今回は、「ありのままの自分」を好きだという感情、つまり自己肯定感を高くする方法のお話です。
「自己肯定感」という言葉だとあまりピンと来ないかもしれないので、このお話では「自分好き感情」と呼びますね。
たとえ話を使って自分好き感情を説明しますので、ぜひイメージしながら読んでください。
サッカーでゴールを決めるようなうれしい出来事もあれば、友だちとケンカするイヤな出来事もあります。
イヤな出来事がたくさんあると、「自分はダメなやつだ・・・」と思うかもしれません。
でも考え方を変えれば、失敗も受け入れて自分を好きになることができます。
1900年代の後半、アメリカのワイナー博士は原因帰属理論(げいいんきぞくりろん)を考えました。
原因帰属理論とは、「ある出来事が起きたときに、その理由は何だろう?」と考えることです。
例えば、100点満点の国語のテストでA君は30点だったとしましょう。
A君の得点が低い理由には、次のような理由が思いうかびます。
この4つの理由は下のようにまとめることができます。
その原因はずっと続く? | |||
---|---|---|---|
毎回のテスト | 今回のテストだけ | ||
何が原因? | 自分が原因 | 国語の勉強の 仕方がわからない |
しっかり勉強 できていなかった |
自分以外が原因 | 問題がむずかしい | 予想外の問題ばかりが テストに出た |
テストの得点が低かった理由は、次の2つの組み合わせから考えることができます。
出来事の理由をどう考えるかで、これからの気分や行動は変わってきます。
「国語の勉強の仕方がわからない」とすると、問題に合った勉強方法をしっかり考えなければ、国語のテストではA君はいつも高い点を取ることができません。
「どうせボクは国語が苦手だし、めんどくさい…」とあきらめてしまうでしょう。
でも、「しっかり勉強できていなかった」とすると、「もう少しがんばれば高い点を取れるはず!」と考えて落ちこまないですよね。
A君のテストの得点のように、うまくいかなかった出来事については「今回だけ」の原因にしたほうがよいと心理学では言われています。
いつもうまくいかないというのは、とてもつらいですよね。
だから、「今回だけ」に当てはまる理由を考え、次のときにはそれを変えることで今度はよい結果にするのです。
そうすると、失敗の経験から成長できるので、自己肯定感を高めることができるでしょう。
この理由の考え方は、他の出来事にも使うことができます。
「今日の放課後に友だちの家で遊ぼうとなったけど、病院に行かないといけない自分だけは遊べなかった」場面を考えてみましょう。
うまくいかない出来事の原因は「今回だけ」にしたほうがよいですよね。
例えば、「どうせ遊べないとあきらめてしまい、何も言えなかった自分」も、「今回だけ」の原因と言えるかもしれません。
「今日は病院に行くからダメだけど、ボクもすごく遊びたい。また明日も遊びの続きをしようよ」と言ったら、今度は「自分だけ遊べないイヤな出来事」にはならないかもしれません。
あなたなら、「今回だけ」の理由としてどんなものが思いうかびますか?
その原因はずっと続く? | |||
---|---|---|---|
いつも | 今日だけ | ||
何が原因? | 自分が原因 | 血友病 | 遊べないと あきらめてしまい、 何も言えなかった |
自分以外が原因 | 学校が早く終わる 曜日にしか担当の医師の 予約が取れない |
病院に行く日が たまたま今日だった |
今回は自分好き感情、つまり
自己肯定感を高める方法のひとつとして原因の考え方のお話をしました。
うまくいかないことがあったときには、「なにか『今回だけの』原因はないかな?」と考えてみてくださいね。