病気を前向きに
受け止めるために
解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生
このお話を読んでいるあなたは、次のようなことをお医者さんから言われたことがあるかもしれません。
「大変だと思うけど、体の状態をチェックするために、これからも病院に来てくださいね。」
こんなことを言われたら「なんでボクだけずっと我慢して病院に通ったり、注射したりしないといけないんだ!」と文句を言いたくなるかもしれませんね。みんなと違うということが何だか仲間はずれな気がして、イヤな気分を感じることもあるかもしれません。
今回は、病気を前向きに受け止めるためのお話です。
イヤな気分のときに問題から逃げたくなるのは、当たり前のことです。だから、まずはイヤな気分を小さくしていくことから始めましょう。
たとえば、お友だちにイジワルなことをされたり、ちょっと遊びのつもりで物を投げたら先生に怒られたりしたとき。そのときのことについて、お母さんやお父さんに話を聞いてもらったら、気持ちがスッキリしたことはありませんか?
自分の中にあるイヤな感情は、言葉にしてみることでスッキリして消えていきます。こうした心の動きを「カタルシス」と言います。カタルシスをうまく使って気持ちをラクにすることは、カウンセラーの先生もよく使う心理学の技です。
でも、自分の気持ちを聞いてもらいたいだけなのに「それはあんたも悪いよ」「そんなこと言ったってしょうがないでしょ」と言われてイヤな気持ちになったことはありませんか。また、知られたらはずかしいからお母さんやお父さんには言いたくないというときもあると思います。
話すのがイヤなときは、手や指を使う単純な作業をするとよいでしょう。
たとえば、チラシをできるだけ細かく破ってみてください。脳から手や足に命令が出て体は動いていますが、動かした手や足からも脳に情報が送られています。指をたくさん動かすことで脳の中がそんな情報でいっぱいになり、イヤな感情や考えを頭から追い出すことができます。短い時間で指をたくさん動かすためにも、難しい作業ではなく簡単な作業をしてくださいね。
「指を動かせばいいのなら、スマホやゲームのほうがいい!」と思うかもしれません。スマホやゲームはとても楽しいから、そっちのほうがいいという気持ちはよく分かります。でも、スマホやゲームはつい夢中になって長時間してしまいますよね。また、スマホから出る光はまぶしいものです。そのため、脳が「今は昼間だ」と誤解してしまうので、夜にねむりにくくなるでしょう。夜にねむれないと、次の日に体がだるくなったり、イライラしやすくなったりします。だから、チラシを破るように単純で簡単な作業のほうがよいです。
また、血友病や治療薬のイメージを変えてみると、病気や治療と付き合うときの気分も変わってくるかもしれません。
たとえば「虫歯の絵をかいてください」と言われたら、あなたはどんな絵をかきますか?たぶん、二本の角があって、フォークみたいな武器をもっている黒いモンスターが、歯に穴をあけている絵をかくと思います。でも、口の中にそんな生き物(?)はいません。
虫歯の写真を見たことがありますか?歯に大きな黒い穴があいていて、なんか気持ち悪いですよね。でも、虫歯のキャラクターで考えると、あまり気持ち悪くありません。これが、外在化(がいざいか)という技です。キャラクターにしてしまうことで、気持ち悪さを小さくすることができます。
血友病や治療薬もキャラクターにしてしまえば、「ジャマな病気」や「めんどくさい作業」ではなく「付き合ってあげてもいいと思えるもの」になっていくかもしれません。キャラクターにするときのコツは、イメージを強調することです。虫歯キンは「歯に穴をあける」から、「武器」を持っていますよね。
川のようにそれぞれの方向にからだの中では血が流れていますが、ケガをすると血はどんどんあふれてきます。
そんなときに血を止めてくれる治療薬は、石や木を組み立てて川の水を止める「森の建築家 ビーバー」に似ているかもしれません。
また、自己注射では凝固因子(ノリ)を注射器で体の中に入れますよね。実は、自分でノリを作れる動物が他にもいるのです。たとえば、カエルです。マンガでは、妖怪を退治するキャラクターや忍者が自分の仲間としてカエルを使うことがありますよね。
こう考えると、自己注射することも「忍者(自分)がカエルを使って戦っている」みたいで楽しくなりませんか?
外在化に正解や間違いはありません。外在化に使うイメージは何でもOKですし、どんなキャラクターでもOKです。でも、血友病や自己注射は長い間付き合っていくものです。せっかくなら、一緒にいてもイヤな気分にならないキャラクターだとよいかもしれません。あなただけのキャラクターを考えて、血友病と付き合いやすくしてみてはいかがでしょうか。
今回は、病気を前向きに受け止めるためのヒントでした。
これらのヒントは血友病だけではなく、他のイヤなことにも使えます。
ぜひ、試してみてくださいね。
ビーバーはネズミの仲間だよ。
ネズミの中で、2番目に大きな体。(ちなみに、1番大きいのはカピバラ)
自分の歯で削った木や石を使って川の水を止めて、そこに家を作るんだ。
ビーバーが作った家はとても丈夫。
修理しながら使えば、子どもや孫、さらに孫の子どもなど、長い間すむことができるよ。
みんなもよく知っているカエルだけど、まだ分からないことも実はあるんだ。
たとえば、あるカエルは子どもを作るときにオスとメスがくっつくけど、
そのときに体から出たノリを使うよ。
最近の研究で分かったことだけど、体から出たノリは、
3時間たってもスニーカーのマジックテープと同じぐらいしっかりくっつける力があるんだ。