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患者さんのココロが前向きになる心理学なんでこんな
気持ちになるの?

ステージ2-2サポーターとの関係構築

生活習慣の
マネジメント

解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生

眠っている子供と時計の写真

あなたは何時にねむりますか?
たぶん、夜10時ぐらいの人が多いかもしれません。
これから勉強が難しくなって宿題が増えると、おそい時間にねむる人が多くなります。
でも、成績をあげるためにねむる時間を減らすのは逆効果なことを知っていますか?

今回は、生活習慣のなかでも特にねむりの大切さや、グッスリねむる方法についてのお話です。

ねむりは、イチローや大谷翔平選手といった一流の野球選手や、2022年に行われたワールドカップの日本チームコーチたちもとても重視するものです。
これから世界レベルで有名な心理学の実験から、ねむりがどんなに大切かお話していきますね。

Jenkins & Dallenbach(1924)を元に作成した図
Jenkins & Dallenbach(1924)を元に作成

まず、ジェンキンスとダレンバックの実験です。
この実験では、夜に実験室で「あそはぬげ」、「べほりねも」などの意味のない言葉10個を大学生たちに完ぺきに覚えさせました。
その後かれらをねむらせて、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後に起こしてどれだけ言葉を覚えているかテストしました。
すると、最初は言葉を少しずつ忘れていったけど、4時間後、8時間後では言葉をほとんど忘れませんでした。

今度は日中に実験室で同じ実験をしました。
意味のない言葉10個を大学生たちに覚えさせた後、
起きてもらったまま1時間後、2時間後、4時間後、8時間後にテストしました。
そうすると、時間が経つにつれて10個の言葉をどんどん忘れていったのです。
この実験から、起きていると色々なことを考えてしまうので、せっかく覚えたこともどんどん忘れてしまうと考えられています。
勉強するうえでとても大切なことなので、勉強したらねむるようにしてくださいね。

ほかにも、スタンフォード大学のバスケットボール部の選手を40日間毎日10時間ねむらせたという面白い調査があります。
選手たちに毎日10時間ねむってもらったら、80m走のタイムは0.7秒縮まり、フリースローは0.9本、3ポイントシュートは1.4本も多く入るようになったそうです。
スタンフォード大学はとても優れた学生が集まるので、バスケットボール部の選手もすごい人ばかりです。
トレーニングや食事など、色々なことに日々気を付けており、かれらの能力はすでに簡単には上がらないほどのレベルに達しているはずです。
でも、ねむる時間を長くするだけで成績が上がったのですから、どのくらいねむりが大切かよく分かると思います。

ここまでは、ねむりの大切さをお話してきました。
でも、せっかくならグッスリねむってほしいものです。

そこで、グッスリねむる方法を2つお話します。

まず、起きたら朝日をしっかり浴びてください。
お昼や夕方になると自然とお腹がへる、夜になるとねむくなって朝になると目が覚める。
一日のスケジュールを教えてくれる体の中の時計、体内時計が生き物にはあります。
でも人間の体内時計は少し残念で、25時間でスケジュールを作っています。
一日は24時間なので少しずれていますよね。

1日の体温の動きの図

このズレを直してくれるものが、朝の日光なのです。
日光を浴びることで、「もう少しねむりたいな…」という体内時計のズレが直り、目がシャキッとするのです。

でも、グッスリねむっているからフトンの中でうつらうつらすることもあると思います。
そんな人におすすめしたいのが、前の日に「〇時に絶対に起きるんだ!」と強く思うことです。
「そんなことで目が覚めるの?」と思うかもしれません。
でも、遠足の前の日や、次の日に楽しみなことがある日は、早起きしようと強く思うだけで朝になるとすっきり目が覚めますよね。
これは、心理学では自己覚醒(じこかくせい)と呼ばれるものです。
たくさんの実験や調査から名前が付いているものなので、効果はしっかりあると思います。

もうひとつおすすめの方法は、ねむる直前に少し冷たいものを飲んだり、ねむりながら手のひらを冷やしたりすることです。
お腹のような体の中の温度(深部体温)とねむりも関係があります。
お昼に運動して体の中の温度が高いときにはねむくなりません。
でも、夜は体の温度が低くなっていくのでねむくなっていきます。
だから、少し冷たいものを飲んだり手のひらを冷やしたりすることで体の中の温度を低くし、ねむりやすくなる状態をわざと作るのです。

人によっては、ねむる前に温かいものを飲む習慣があるかもしれません。
そういう人は、「温かいものを飲むこと」がねむるためのスイッチとなっているので、そのままの習慣でも問題ありません。

今回のテーマは、生活習慣のマネジメントのひとつ、ねむりでした。

これから学年がどんどん上がるにつれて、ねむる時間を減らしていくかもしれません。
でもねむりを大事にしないと、心の健康が保てず、成績は下がり、スポーツも上手にできなくなります。
自分にとって十分な時間をねむるため、朝の日光を浴びる、ねむる直前に深部体温を下げる。
試してみてもらえると、うれしいです。

コラム「心理学の知識を使うのはカウンセラーだけ?」
コラム「心理学の知識を使うのはカウンセラーだけ?」

第1回の記事で、心理学の知識はカウンセラーの先生が使っていると言ったよね。
でも、心理学の知識は色んなところで使われているよ。

例えば、犬のお手
あれも、心理学の知識を使ってるんだ。
犬が少し前足を出したときにほめていって、少しずつお手の動きができるようにしていくんだよ。
知らないところで、あなたも心理学の知識を使っているよ。

お手をする犬のイラスト
JPN-AFS-1636