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患者さんのココロが前向きになる心理学なんでこんな
気持ちになるの?

ステージ3-1病気のコントロールと達成感

マイナス思考から
抜け出すための
テクニック

解説 愛媛大学医学部附属病院 臨床心理士 中尾 綾先生

笑っている青年の写真

きちんと病院に通う。自己注射をする。
足首やヒザがムズムズしたら、すぐに保健室に行って冷やす。
あなたはそうやって出血に対応していると思います。

でも将来、大人になって一人で生活してみると、自分の力だけでは大変な日もあることでしょう。
やっと家に帰れた...、仕事がきつい...、明日も早い時間から会社に行かないといけない...。
こんな毎日が続くと、予定通りに自己注射ができない日も何回か出てくるかもしれません。
「こんなふうに注射がうまくできないことが続くと出血して、仕事を続けられなくなるんじゃないかな...」と、とても不安になると思います。

このような暗い考え、つまりマイナス思考から抜け出して気分を落ち着けることも、体調管理のひとつです。
マイナス思考が続くと悪いことばかり考えてしまい、そのことで体や心の調子が悪くなってしまうからです。

今回は、マイナス思考から抜け出すためのテクニックのお話です。

このテクニックは色々な悩みに使えますので、ぜひ参考にしてみてください。

授業で先生にとても難しい問題をたずねられたことはありますか?
そういうとき、「答えは何だっけ?」とあせってしまい、なかなか答えられないことがありますね。
でも、友だちが難しい問題をたずねられたときには、友だちが答えるよりも先に「答えは〇〇だよね」とすぐに分かったりしませんか?

友だちが答えるのを自分の席から見るように、問題や出来事と遠ざかると不安やあせりなどの感情からも遠ざかることができ、落ち着いて考えることができます。
それまでは見えなかったヒントが見えて、どうすればよいか気づくことができるからです。

これは、心理学ではメタ認知と呼ばれるものです。
「メタ」とは、外側に立って見ること。
「認知」とは、考えること。
外側や遠い場所に立って自分や出来事を見たり考えたりすること、それがメタ認知です。

メタ認知のイメージのイラスト メタ認知のイメージのイラスト

イメージにすると、「いま目の前にある問題に向かい合っている自分」の後ろから「応援したり、指示を出している自分」がメタ認知です。
授業中の質問のたとえ話でもあったように、「目の前の問題から離れて落ち着いて考えられる」ことがメタ認知のメリットでした。
でも、メタ認知のメリットは他にもあります。

このメタ認知のイメージイラストを見て、何かに似ていると思いませんか?
そう、RPGゲームしているときのあなたと似ているのです。
ゲームでコント―ローラーを操作しているのが、一段上のメタ認知のあなた。
ゲームの中で実際に動いているのが、問題や悩みなどと実際に戦っているあなたです。

RPGゲームのイラスト RPGゲームのイラスト

RPGゲームで敵と戦うとき、自分のレベルや相手の強さは絶対に確認しますよね。
このように、「自分や周りの情報を集められること」もメタ認知のメリットです。
そして集めた情報を使って、どう行動すべきか決めますよね。
例えば、勝てそうな敵が相手なら戦う。でも、強い敵が来たら無理せず逃げる。
つまり、「今の場面にあった行動を取りやすくなる」というメリットもメタ認知にはあるのです。

では、最初に出てきた、「予定通りに自己注射をできなくて不安になってしまっている自分」をメタ認知してみると、どうなるでしょうか。
自己注射が予定通りにできない自分を観察していると、仕事で疲れすぎて余裕がなくなっているということに気が付くかもしれません。
そうであれば、まずは体力を回復させるために、お休みをもらうのもよいでしょう。
そのうえで、上司に相談して仕事の量を減らしてもらったり、通勤時間を短くできるルートはないか探したりするなど、アイデアを探してみるのも、ひとつの手段です。

メタ認知は、スポーツテクニックのようにトレーニングで身に付けることができます。
他の人の立場から自分自身を見るように、冷静に自分を見つめ、そして受け入れることを繰り返すことで、メタ認知能力は高まります。

では、メタ認知能力を高めるためにはどうしたらよいでしょうか?

メタ認知のトレーニング方法のひとつに、レーズン・エクササイズがあります。
これは、レーズンひとつを食べるまでの間にしっかりレーズンを観察したり、どんな味がするか考えていくというものです。
レーズンが苦手な人は、梅干しやナッツなど他のものでも大丈夫です。

たとえば台風がどのくらい強いかを表現するときの、ニュースのアナウンサーを思い出してください。

台風のニュースを伝えるアナウンサーの様子のイラスト 台風のニュースを伝えるアナウンサーの様子のイラスト

そんな感じで、いま目の前にあるレーズンについて思うことを言葉に出してみてください。

レーズンを観察している子どものイラスト レーズンを観察している子どものイラスト

このように、自分の体験していることを言葉で説明するということを繰り返していると、メタ認知のテクニックが少しずつ身に付くようになります。

今回は、マイナス思考から抜け出すためのテクニックとしてメタ認知のお話をしました。

レーズン・エクササイズは今日すぐにできるトレーニングです。
ぜひチャレンジしてみてくださいね。

コラム「日記はすごいものだった」
コラム「日記はすごいものだった」

メタ認知。自分がしたことを離れたところから見る、考えてみる...。
どこかでやったことはないかな?

そう、実は日記と同じなんだ。
今日はどんなことをした、その結果どうなった、どんなことを感じた・・・。
ほら、遠くから自分の行動を見て、それを受け入れているよね。
だから、日記を書くことでもメタ認知のテクニックを身に付けられるよ。

日記のイラスト
2023年5月作成
JPN-AFS-1636