HAEの治療方法

監修:京都大学大学院 医学研究科 血液・腫瘍内科学 山下浩平先生

ここでは、遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)の治療に関して、急性発作が起こったときの治療、急性発作の予防、日常生活で気をつけることなどについてご紹介します。

急性発作が起こったときの治療(オンデマンド治療)

HAEの急性発作が起こったときに治療(オンデマンド治療)する薬があります。オンデマンド治療の薬は「C1インヒビター(別名:C1インアクチベーター)製剤」と「ブラジキニン受容体阻害薬」です。

C1インヒビター製剤

C1インヒビター製剤は、HAEの原因であるC1インヒビターの不足・機能の低下に対して、C1インヒビター自体を補充する薬です。 C1インヒビターの補充によって、腫れの主な原因であるブラジキニンの生成を抑えます。静脈内に注射または点滴する薬であり、医療機関に行って注射してもらう必要があります。数時間以内に効果がみられないときには、追加で投与を受けることができます。

ブラジキニン受容体阻害薬

ブラジキニン受容体阻害薬は、腫れの主な原因であるブラジキニンの働きを抑える薬です。皮下注射する薬であり、医療機関に行かなくても自分自身で注射することもできます(注:医療機関でのトレーニングが必要)。効果が不十分なときには、6時間空けて再度投与することができます。

普段の生活における急性発作の発症抑制(長期予防)

普段の生活において、長期的にHAEの急性発作の発症を抑制(長期予防)する薬剤として、「C1インヒビター製剤」と「血漿カリクレイン阻害薬」があります。

C1インヒビター製剤

長期的に発症を抑制するC1インヒビター製剤も、C1インヒビターを補充する薬ですが、皮下注射する薬であり、医療機関に行かなくても自分自身で注射することもできます(注:医療機関でのトレーニングが必要)。ふつう、週に2回皮下注射します。

血漿カリクレイン阻害薬

血漿カリクレイン阻害薬は、腫れの主な原因であるブラジキニンの生成を抑える薬です。飲み薬と皮下注射する薬があります。飲み薬は1日1回服用します。皮下注射する薬は2週間に1回(症状が安定すれば4週間に1回)注射します。皮下注射する薬は、医療機関に行かなくても自分自身で注射することもできます(注:医療機関でのトレーニングが必要)。

侵襲を伴う処置がある場合の急性発作の発症抑制(短期予防)

体に負担がかかる手術、抜歯、検査など、侵襲を伴う処置がある場合、短期的に急性発作の発症を抑制(短期予防)する薬剤として、「C1インヒビター製剤」があります。

C1インヒビター製剤

短期的に発症を抑制するC1インヒビター製剤も、C1インヒビターを補充する薬ですが、静脈内に注射または点滴する薬であり、医療機関に行って注射してもらう必要があります。ふつう、処置前の6時間以内に投与を受けます。

日常生活で気をつけること

周りの人に話をしておきましょう。

環境の変化や特別なストレスなどによってHAEの発作が起こることを、家族、友人、学校や会社など周りの人に知らせておくとよいでしょう。また、HAE以外の病気で医療機関を受診する際は、自分がHAEであることを医師に伝えるようにしましょう。

発作の「引き金」を把握して
おきましょう。

HAEの発作を予防するためにも、患者さんやそのご家族が発作の引き金になるものを把握し、できるだけ避けるように心がけることが大切です。心理的・身体的・生理学的なさまざまなストレスが発作の引き金になることが知られています。高血圧治療のためのACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤は、ブラジキニンの分解を抑える作用をもち、発作を引き起こす可能性があるため、使用については注意が必要です。女性では、生理や妊娠・出産が症状の増悪を引き起こす可能性が知られており、エストロゲンを含む経口避妊薬が発作の引き金となることがあります。これらの薬剤の使用については、主治医の先生と相談しましょう。

HAEの発作の主な引き金

ストレス

心理的ストレス

身体的ストレス(ケガ、外科手術、出産、
歯科治療など)

生理学的ストレス(ウイルスまたは細菌感染、胃潰瘍の原因となるピロリ菌も含む)

薬の使用

高血圧治療のための
ACE阻害剤

経口避妊薬

など

発作の「予兆1)」を知って
おきましょう。

HAEの発作の予兆を感じることがあります。早めに気づいて受診するためにも、ご自分が感じやすい予兆を知っておくとよいでしょう。以下のような症状が予兆として知られていますが、比較的多くみられる特徴的な予兆は、腕やお腹などに出現する輪状紅斑(皮膚が輪っか状に赤くなる)で、半数以上の患者さんに認められたという報告があります1)。声がかすれる、呼吸音がヒューヒュー・ゼーゼー鳴る、せき、息切れなどがある場合は、発作でのどが腫れているサインかもしれません。のどの腫れは窒息につながる恐れがあるため、苦しいときはためらわずにすぐ受診しましょう(詳しくは緊急時に備えようへ)。

HAEの発作の主な予兆

倦怠感

チクチク感

ヒリヒリ感

吐き気

お腹がゴロゴロする

便通が変化する

インフルエンザの
ような感覚

皮膚が輪っか状に
赤くなる

など
1) Ohsawa I et al: World Allergy Organ J 2021; 14(2): 100511.
Tweet
pagetop