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  4. CIDP患者さんと主治医の二人三脚ストーリー Story3 溝口里絵さん×角華織先生(大分)

CIDP患者さんと主治医の二人三脚ストーリー

イラスト
Story.3

夢は、あきらめない。
先生と一緒に追い続ける。

写真:主治医 角 華織 先生
角 華織 先生
大分大学医学部
神経内科学 助教
*肩書は取材当時
写真:患者さん 溝口 里絵さん
溝口 里絵さん
病歴25年 
大分県大分市在住

音楽を愛し、音楽と共に成長してきた溝口里絵さんは、
20歳の頃にCIDPを発症。
その後何度か再発を繰り返しながらも、
先生との二人三脚で症状を抑えながら、
再び音楽とともに歩む日々を手繰り寄せようと
治療を続けています。

写真:患者さん 溝口 里絵さん

あれ?…指に力が入らない。

小学生の頃にヴィオラと出会い、高校、短大と、音楽を専門的に学びながら演奏を続けていた溝口里絵さんは、ある日、左手の親指と人差し指に力が入らないことに気づいてガク然とします。それは今から25年ほど前の出来事でした。

最初は腱鞘炎かな?と思いました。ヴィオラを弾くのにずっと手を酷使し続けてきましたから、楽器を弾くことで出た症状なのかな?と思ったんです。もう今までにない感覚で、たぶん説明しても誰もその感覚ってわからないと思うんですけど、力がまったく入らないんですよ

写真:患者さん 溝口 里絵さん

左手の親指はヴィオラのネックを支え、人差し指は4本の弦を抑えるのに大切な指。ともに演奏の軸となる指ですから、それが使えなければヴィオラを弾くことなどできません。

痛みは全然なくて、ただただ左手の指が動かせない状態。“弾きづらい”のではなくて、“まったく弾けない”という状況でした」と溝口さんは当時を回想します。

さっそく整形外科を受診しますが、医師からは「ちょっとウチでは分かりませんね」という回答。そこで他の整形外科を訪ねてみるということを繰り返しました。

あの頃は本当に不安でした。インターネットはもうあったかもしれませんけど、私はまだ使っていませんでしたし、今みたいに病気のことを簡単に調べられる感じではなかったですね」と溝口さん。

しかしこのまま演奏ができなければ、試験が受けられないので卒業することもできません。そこで溝口さんが短大の先生に相談すると、たまたま話を聞きつけた他の先生から「県立病院に神経内科っていうところがあるから、行ってみたら?」との助言を得ます。
当時は神経内科という言葉すら聞いたことがなかった溝口さんでしたが、楽器を弾く以外にも、ボタンを止めたり紐を結んだりといった日常生活の様々な場面で左手が使えなくて困っていたため、藁にもすがる思いで受診することにしました。

治ったと思っていたら、再発。そして再再発。

大分県立病院でいくつかの検査を行った結果、CIDPとの診断を受けます。
CIDPなんて聞いたこともないし、それって何なんだろう?という感じしかなかったですね
まもなく、1週間ほど入院して治療を受けました。

写真:患者さん 溝口 里絵さん

1回の入院で良くなったかどうか、よくは覚えていないんですけど、とりあえず演奏活動には、ほぼ復活できましたので、その時は楽観的に『あぁ、治ったんだな』って思いましたね」その後しばらくの間は、それほど不自由を感じない生活を送っていた溝口さんでしたが、5年ほど経ったある日、再びCIDPの症状に見舞われました。今度は指先ではなく、全身を脱力感が襲ったといいます。

この時は、実は突然というわけでもなくて。例えば座っている姿勢から立ち上がるという動作で言えば、最初は『あれ?ちょっとおかしいな』っていう感じ。でもそれがほんの3、4日の間に、だんだん立ち上がりづらくなって、やがてまったく立てなくなる、という速さで進行していったんです

これはまずい、と病院へ行こうとしたものの、何かにつかまらないと立てないし歩けないという状態で、母親の手にすがりながらやっとの思いで病院にたどり着いたといいます。そして間もなく、2度目の入院をすることになりました。

写真:大分県立病院外観

入院して集中的に治療した溝口さんは、
2度目の入院の後も、ほぼ症状のない状態が続いていたので、『あ、治療して治ったんだな』っていう感じで生活してましたね

その後小さな再発を何度か繰り返しながらも比較的安定した生活を続けていた溝口さんは、めでたく結婚し、35歳で長女を出産。しかしこの大切な時期に、またも大きな再発を経験することになります。2度目の入院から10年が経過した頃のことでした。

娘が生まれて、でも私は力が入らなくて抱っこできないので、外出する時は可哀想だけどいつもベビーカーでした。1歳になった頃からは、また入院を繰り返していましたから、子供を抱っこして外に連れ出したっていう記憶がほとんどないんですよね
そして治療を続けるうちに、当時大分県立病院に勤めていた角華織先生と出会いました。

もう、再発はさせない。

角先生は、主治医として初めて溝口さんを診察した時のことをこう振り返ります。

写真:角 華織 先生と患者 溝口 里絵さん

私が初めてお会いした時には、既に左手がかなりお痩せになっていましたので、けっこう長期の経過をたどって来られたのだろうなという印象を受けました。これ以上痩せたら手が動かなくなることも考えられますから、再発させないことが何よりも大切だと考えました。たとえ再発したとしても、早期であれば元に戻ることもありますから、そこを見逃さないようにしないといけないと思っていましたね

角先生は、前任の主治医からの申し送りを得て治療計画を立て、溝口さんとの二人三脚をスタートさせます。

私が担当してからも3回ほど再発されまして、これは再発の頻度が高いなと感じていましたので、以前一度試してみたものの中止していた維持療法を再開することにしました

溝口さん自身も、再発の頻度が高いことは実感していました。前の先生の時代にも、顔面麻痺が起きたり、舌が動かず呂律が回らなくなったりしたこともありました。

写真:主治医 角 華織 先生

角先生と出会ってからも、左目が動かしたい方向に動かせなくなって、車の運転ができなくなることもあったそうです。他にも、全体的に身体に力が入りにくいといった小さな再発は何度も経験しましたが、しばらく様子を見ようと思っている内に症状がおさまることも多く、良くも悪くも再発に慣れてしまっていたと溝口さんは語ります。また、CIDPのことを周りの人たちには話していなかったため、日々の生活の中で、他の人に合わせようとして無理をしてしまい、症状を悪化させてしまうこともあったといいます。

ちょっと無理して重たい物を持ったりすると、その後1、2週間手がダルかったり、他の人に合わせて早く歩いたりすると、次の日から足が重くなったりしましたね

それに対して角先生は、
溝口さんが無理して筋力を使うと、かえって疲れたり悪くなったりすることがあるというのは伺っています。ですから今はリハビリはやっていません。基本的にリハビリは大切なことですが、溝口さんの場合は日常生活そのものが、つまり家事・育児・お仕事をされていることがリハビリだとも言えると思います

溝口さんに「角先生は、どんな先生ですか?」とお尋ねすると、こんな答えが返って来ました。
ゆっくりやさしく話を聞いてくれる、何かあった時にも気楽に話せる先生です。顔を見るだけで怖い先生もいらっしゃいますからね(笑)。それと、診察の最後に必ず『他に何か気になることはありませんか?』って聞いてくださるんですよ。私たち神経内科の患者の話って、どうしても感覚的なものが多くなりますから、先生が聞いても分かりづらいと思うんですよね。患者側もそれが分かっているから『話したいけど、話せない。でもやっぱり話したい!』みたいな複雑な思いがあります。だからこそ、ゆっくりじっくり話を聞いてくれる角先生は、とても安心できる、頼りになる存在なんですよね

角先生と同居中の愛猫みかんちゃん

そんな溝口さんの話を聞いていた角先生は少し照れながら、こう語ってくれました。
もちろん私も忙しい時には、患者さんの話を遮ってしまわざるを得ないこともあります。でもやっぱり、患者さんの話を聞くことはとても大事だと思うんですよね。患者さんも、話をちゃんと聞いてもらえるのと、もらえないのとでは、たとえ同じ治療を受けて、同じ薬を出されたとしても、受ける印象や満足度は違ってくるんじゃないかと思って、時間の許す限りお話を聞くように努めています

もう一度、演奏したい。

今はCIDPの症状で、毎日の生活に支障をきたすことはあまりないという溝口さんですが、一方で、音楽へ思いには断ちがたいものがあります。

一番はやっぱり『音楽がやりたい、演奏したい!』っていうことですね。ヴィオラを教える仕事は続けてますけど、自分の演奏活動は今はやっていません。別府のオーケストラも、仲間と組んでいるカルテットも、穴を開けたら大変なので活動をセーブしている状態です。大きなコンサートホールで演奏するにしても、病院や小さな施設で弾くにしても、そこには演奏することで喜んでくれる人たちがいらっしゃいますから、そんな方々のためにも、また演奏できるようになればいいなと思いますね

写真:患者さん 溝口 里絵さん

そんな溝口さんの思いを受け止めながら治療を続ける角先生は、「CIDPの患者さんって人数が少ないですから、周りから理解されずに苦労されることも多いと思うんですけど、溝口さんは、今も仕事を続けながら、家事も育児も治療もしっかりとされている。だからできるだけ今の良い状態を長く続けられるように、そしてまた演奏ができるようにしていきたいですね。CIDPの治療をする上では、急性期の治療や寛解期の治療を、患者さんのライフスタイルに合わせて考えていくことが必要だと思います。画一的な治療ではなくて、患者さんの背景を検討しながら治療していくことが、やっぱり大切なんじゃないかなと思いますね

もう一度聴衆の前で演奏し、聴く人に音楽の喜びを届けたいと願う溝口さんと、その思いをしっかりと受け止めて寄り添い、あと押ししようとする角先生。お互いの個性と人生を尊重しながら、じっくり話し合って定めた共通の目標に向って着実に歩を進めていくお二人に、患者さんと主治医の、一つの理想的な関係を見せていただいたような気がしました。

溝口里絵さんに学ぶ「あなたの治療のヒント」

症状は人それぞれだと思いますけど、皆さん何かあった時にはすぐに先生と話ができて、一緒に頑張れると思える関係が出来上がるといいなと思います。
話を聞いてくれて、私の病気のことを一生懸命考えてくれてるなと思うと、自分も頑張ろうと思えてきますからね。

角先生からの「ワンポイントアドバイス」

CIDPは治療法がある病気ですから、早期発見・早期治療が何より大切だと思います。また進行する前に、なるべく急性期の治療を十分に施すことが大切だと感じますね。ギランバレー症候群などと比べても知られていない病気ですので、もっとこの病気を皆さんに周知できればいいですよね。困っていらっしゃる方に、こんな病気があるんだよということを知っていただけるといいと思いますね。