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※紹介した症例は患者さん個人の発言に基づく臨床症例の一部を紹介したもので、
全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

CIDP患者さんを支える10人の物語

イラスト
04:入退院にあたって患者さんが新たな環境に不安なく身を置けるよう私たちが力を合わせてサポートします

東京都小平市
国立精神・神経医療研究センター
(NCNP)病院

入退院支援室
看護師
花井 亜紀子 さん
看護師
朝海 さつき さん
看護師
脇坂 祐子 さん

「入退院支援」という仕事

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 花井 亜紀子 さん
花井 亜紀子 さん

 外来の患者さんが入院することになったり、入院していた患者さんが退院することになると、新たな環境への不安や不便が生じることも多い。そんな患者さんをサポートして、万全の態勢を整えていくのが “入退院支援” という仕事だ。今回はそんなお仕事に従事されている3人の看護師さんにお話を伺う。

 看護師経験21年と経験豊富な花井亜紀子さんは、看護師の仕事をしながら緩和ケアの教育機関で研修を受け、緩和ケア認定看護師の資格を取得した後、この病院に来た。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 花井 亜紀子 さん
花井 亜紀子 さん
写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 朝海 さつき さん
朝海 さつき さん

 「緩和ケアというと“がん末期”という話になりがちなんですけど、それだけじゃなくて患者さんの日常を支える仕事でもあるんです。私は難病の緩和ケア看護をしていたので、これまでの活動経験を買われて、入退院支援室に呼ばれたんだと思います」
 現在、国立精神・神経医療研究センター(以下、NCNPと記述)病院の入退院支援の中心として忙しく活動されている。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 脇坂 祐子 さん
脇坂 祐子 さん

 朝海さつきさんは、入退院支援のうちでも特に退院支援が主な担当だ。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 朝海 さつき さん
朝海 さつき さん

 「看護師歴17年です。患者さんが退院した後の最適な医療機関や薬局を探して調整したり、リハビリや生活支援のお手伝いをしています」

 そして、脇坂祐子さんの担当の中心は入院支援。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 脇坂 祐子 さん
脇坂 祐子 さん

 「今年で7年になります。入院前に患者さんに説明をしたり質問を受けたり、また患者さんの様々な情報を収集したりするのが主な仕事です」

CIDPの患者さんとの向き合い方

 NCNP病院の入退院支援室が関わる患者さんの中に、CIDPの患者さんは現在30人ほど。
CIDPなど難病と向き合う患者さんに対する時に心がけていることは?と花井さんにお尋ねしてみた。
 「病名自体が希少である上に、たとえ同じ病気であっても人によって症状も違えば治療も違います。それに患者さんの生活背景や価値観も人それぞれ。だから病名や障害よりも、一人一人の患者さんとしっかり向き合って、その方が抱えていらっしゃる問題を知って、そこに関わっていくことが大事だと思っています」

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 花井 亜紀子 さん

入院にも退院にも不安はつきまとう

 入院支援担当の脇坂さんは、これから入院されるCIDPの患者さんから一番よく聞かれるのは“入院費”のことだと語ってくれた。多くの患者さんは、高額医療費についての知識もなく、指定難病の申請も済んでいない。
 「そういったことについて私からご案内させていただきます。でも説明する時にはもう患者さんは大抵疲れてらして、あまり頭に入らないことが多いんですよね。ですから後で落ち着かれた時にもう一度、同じことを説明したりもします」

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 脇坂 祐子 さん

 では退院時の患者さんの心配はどんなことが多いのか? 朝海さんに尋ねてみた。
 「今後の治療先・医療機関はどうなるか? どのくらいの頻度で通うことになるのか? 薬品がどこで手に入るのか? というのが一番多いですね」。
朝海さんは可能性のある医療機関や薬局などを探して連絡を取り、退院後の患者さんの治療と生活の段取りをしていく。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 脇坂 祐子 さん

 経済的な部分については、社会制度のプロであるソーシャルワーカーにつないで丁寧に説明してもらう。就労支援にも経済面にも様々なサービスや制度があるが、それらは患者さんが住む自治体によって異なることも多く、極めて専門的な知識が必要となるからだ。
 退院にあたっては、“退院前カンファレンス”も開催される。患者さんと主治医、看護師、リハビリテーションスタッフ、ソーシャルワーカーなど院内スタッフに加えて、退院後に地域で支えていただくケアマネージャー、保健師、訪問リハビリテーションスタッフ、ヘルパーさんらも交えて情報を共有し、患者さんの退院後の生活に向けて万全の体制を整える上で欠かせないという。

CICP患者さんとの思い出

 担当したCIDPの患者さんとの記憶に残るエピソードについてお尋ねすると、「以前、私が産休に入った時に…」と脇坂さんが語り始めた。病棟で3年間治療されていたある患者さんが、脇坂さんが産休に入る前日にわざわざ挨拶に来てくれた。そして「必ず戻って来てね。知ってる人がいるとすごく安心できるから」と言ってくれたのだそうだ。
 「患者さんって、知っている看護師がいるだけで安心できるんだ!そんなことが助けになるんだ!と知って、すごくありがたい言葉がけをしていただいたなと今でも感謝しています」

 朝海さんは、未就学児を抱えた若い母親の退院時の思い出を語ってくれた。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 朝海 さつき さん

「その患者さんは当初、ご主人も大変忙しいので退院後にこのNCNP病院に通い続けるのは難しい、とおっしゃっていました。そこで、患者さんの地元でこれまでの治療を継続できる医療機関を探し始めたんですが、いろいろ当たったものの結局見つからなくて、1軒1軒『ここは、こんな理由でダメでした…』と説明していきました」。
 患者さんはしばらく黙って聞いていたが、やがて意を決したようにこう言ったのだそうだ。「この病院で初めてCIDPと診断していただいたし、やっぱり、ここに通い続けようと思います!」と。朝海さんは
「自分の病名を見つけてくれた先生に対する信頼感っていうのはスゴいものなんだなぁと、あらためて気づかされましたね」
と感慨深く回想する。

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院 入退院支援室 看護師 朝海 さつき さん

入退院支援という仕事のやりがい

 入退院支援という仕事をしていて、やりがいを感じるのは、どんな時なのだろう?
 朝海さんは、患者さんの退院先の地域の薬剤師とのやりとりを挙げてくれた。患者さんの自宅の近くで薬局を探すのだが、地域の薬剤師にとってたいていは初めて扱う薬剤だし、どれくらいの量を用意しておけばいいのか、需要サイクルはどれくらいか、ご自宅に届けた方がいいか薬局に来てもらうべきか、などわからないことも多い。朝海さんが電話で一生懸命説明すると、中には「自分だけでは判断できないが、上司に相談してみる」とか「患者さんの冷蔵庫に1ヶ月分の薬剤を保管するスペースがあるかどうかわからないから、1週間ごとにお渡しできるよう上に掛け合ってみる」などと言ってくれる人が現れたりする。
「そんな時は自分もやりとりしていて楽しいです。地域にいっしょになって患者さんを支えていこうとしてくださる方がいると嬉しくなりますし、やりがいを感じます」

写真:東京都小平市 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院

 脇坂さんは、入院を支援する自らの役割を“アイス・ブレーキング”、つまり患者さんの緊張をほぐして心を通わせる仕事だと感じている。
「患者さんにいろいろお話を伺っていると『実は、さっきはこう言ったんだけど、ホントは…』みたいな言葉が出てきたりするんです。ほんの20分ほどの面談の中で、ちょっとした信頼関係みたいのが生まれて、さっきは話せなかったことを話していただけたりする。誰にだって言いにくいことはあると思いますので、少しは言いやすい雰囲気が作れたかなと思えて、もっとがんばろうという気になりますね」

CIDPと向き合う患者さんへ

 CIDPと向き合う患者さんにお伝えしたいことがあれば、とお尋ねすると、まず脇坂さんが、患者さんが抱える悩みや本音を少しでも言葉にしてもらえたら、一緒に考えることができて嬉しいと語ってくれた。
 「私は患者さんの一言一言に育てられていると思うんです。ですから辛いことや困ったことがあったら、何でも言っていただけたらと思います。それは自分の学びになりますし、同じような境遇にある患者さんのために役立つこともありますから」
 花井さんは、医学の進歩が患者に希望をもたらすことを指摘した。
 「難病の世界に入って20年になりますけど、20年前と比べて使える薬がすごく増えてきたなという印象があります。ですから治療に関しては希望を持っていただけると思います。加えて、治療とか病気以外の“生活”に関してもその人らしく、患者さんらしくあり続けて欲しいですね」
 最後に花井さんが3人の、さらに他の多くの看護師たちの気持ちを代弁するように語ってくれた。
 「看護師は、病気は治せないけど、患者さんの生活の支えになることはできます。患者さんがいい時も悪い時も、一緒に喜んだり悲しんだりして伴走しながら病気に向き合っていける仕事だから、私はこの仕事を続けていきたいと思うんです。再発して悪くなったり、病状が上向かなかったりすると、患者さんも落ち込むし私たちも落ち込みます。だけど一緒になって落ち込むことで、次のステップに臨める段階になるまで寄り添い続けることもできるし、次はどうしようか?って、一緒に考えて一緒に新しい道を切り拓いていくことだって、できると思うんですよね…」

 どんな時も患者さんに寄り添い続ける花井さん、朝海さん、脇坂さんの言葉からは、入院や退院後も継続していく患者さんの人生が、いつまでも「その人らしい」ものであって欲しいという熱い想いが、ひしひしと伝わってきた。

花井さん/朝海さん/脇坂さんが患者さんを支えている小平はこんなところです

小平グリーンロード

小平をぐるりと一周する起伏の少ない約21km。水と緑あふれる散歩道です。

写真:小平グリーンロード

中央公園

運動公園や複合遊具を中心とした広場があり、子どもからお年寄りまで楽しめます。

写真:小平中央公園

※写真はいずれも小平市公式ホームページより

取材日:2021年9月27日