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※紹介した症例は患者さん個人の発言に基づく臨床症例の一部を紹介したもので、
全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

障壁のない、
柔軟な社会の実現を目指して~CIDP患者さんの治療と就労の両立のために~

柔軟な社会の実現を目指して ~CIDP患者さんの治療と就労の両立のために~

インタビュー

独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院
  • 脳神経内科 神経筋疾患部中山 貴博先生
  • 外来看護師脇 恩さん
  • 医療福祉相談室 医療ソーシャルワーカー(MSW)目黒 りうさん

取材日 2024年3月28日 取材場所 横浜労災病院会議室

CIDPは寛解と再発を繰り返すため、再発の頻度によっては寛解後に維持療法を継続する必要のある方もいらっしゃいます。仕事をしながら治療を継続されている方、今後の見通しに不安のある方にどのような社会的支援・医療支援があるのでしょうか。“勤労者医療”を理念の一つに掲げている横浜労災病院 脳神経内科(神経筋疾患部) 中山貴博先生、外来看護師 脇恩さん、医療福祉相談室医療ソーシャルワーカー(MSW) 目黒りうさんにお話を伺いました。

患者さんの不安や悩みが
症状にも影響することも

CIDPの維持療法では外来時の小さな変化にも気づくことが大切

写真:中山 貴博 先生

中山先生CIDPの治療は筋力低下などの症状の改善を目指した寛解導入療法と改善状態の維持を目指した維持療法に分かれます。寛解導入療法での治療目標が症状の改善であるのに対して、維持療法では『患者さんが自立した社会生活を送れるようにする』ことがポイントとなります。維持療法中には、患者さんのちょっとした不安や悩みによっても症状が変動しますので、その変動が確実な筋力低下を示しているのか、あるいは許容できる想定範囲内の変動であるのかを握力検査や複数の筋力検査などを行い、しっかりと見極めることに重点を置いています。

脇さん維持療法中の患者さんには外来時に、『一般的な身体の状態だけではなく、日常生活を問題なく送ることができているか』という点について、問診票を用いて患者さんの様子を診ながら聞き取りをします(写真❶)。当院の外来看護師は担当制で複数の科をローテーションで回るため、その問診票を用いることで、どの看護師でも同じように患者さんの情報を得ることができるようにしています。患者さんの自己申告だけではなく、問診票に書いてある文字や丸の付け方の筆跡や筆圧などから、患者さんとは異なる視点で身体の変化に気づくようにしています。

写真❶
写真:問診票

CIDP治療中の患者さんの不安・悩みに寄り添う

写真:脇 恩 さん

中山先生身体が思うように動かなくなることによって、「仕事を続けていくことができるのか」という心配に加えて、治療費の工面という悩みをお持ちの患者さんは多いです。薬剤選択の工夫や経済面や社会面での支援制度を紹介するなど、医師、看護師、薬剤師、MSWなど多職種の複数のスタッフが一人ひとりの患者さんをサポートしていくことが必要だと考えています。

脇さん金銭面の不安が解決したとしても患者さんの不安が無くなるわけではないと思います。難病という進行性の疾患を抱えられている以上、日常生活が悪化してしまうのではないかという不安は常にあると思うのです。そして中山先生のおっしゃるとおり、不安感は症状変動にも影響してしまいます。看護師はそうした患者さんの気持ちをキャッチすることの専門職ですから、雑談でもどんなことでも良いので、看護師にお話しいただければと思います。

写真:目黒 りう さん

目黒さんCIDPの患者さんの中には仕事に就かれている方も多く、通院の頻度というのは働いている方にとって死活問題です。頻回に通院しなくてはならない一方で、限られた有給日数の残日数を考えながら仕事をするという状況は精神的な負担も大きいのではないかと推察します。定期的に休む必要があることについて会社の理解を得ることが難しい場合も多いでしょう。
私の所属する医療福祉相談室では、CIDPの患者さんに限らず当院にかかっておられる患者さんで社会的な問題をお持ちの方のご相談を受けています。適切な支援につなげ、患者さんやご家族の可能性を引き出し、可能な限りご自身やご家族の力でできることを大切にするよう日々心掛けています。

在宅での治療継続という選択肢も

中山先生維持療法をしているにもかかわらず治療期間中に症状に波がある患者さんや、仕事の都合等で休みがとりづらく、頻回の定期的通院が難しい患者さんには自宅でCIDP維持療法を継続(皮下注用人免疫グロブリン製剤の自己投与)していただくことを紹介するようにしています。

写真:中山 貴博 先生

患者さんはちょっとした不安で症状が変動しますので、その変動がいわゆる想定範囲内なのか、そうでないのかをきちんと見極める必要があります。症状が変動する患者さんにとっては、血中のグロブリン濃度が安定していたほうがメリットは大きいと思います。
治療薬剤の選択に際しては、効果が持続するということが一番のポイントだと思います。効果が持続して、なおかつ病院へ来る頻度が減るということが大切なことだと思うので、それは必ず患者さんに説明しています。

脇さん一般に在宅での自己投与等の治療に踏み切れない患者さんの中には、自分で注射針を刺すことに不安をお持ちの方もいらっしゃいます。そのような場合、必ずしもご自身で注射針を刺す必要はなく、ご家族や訪問看護師の力を借りることも一手であるとお伝えしています。

目黒さん在宅で治療を続けられることは仕事をお持ちの方などにメリットが高い反面、通院頻度が減ることで困ったときにどこに相談したらよいのかわからないこともあるかもしれません。また、医師に直接電話をすることは患者さんにとってはハードルが高いかもしれません。そのような場合に、MSWにご相談いただければ、主治医へ適宜つないだり、お住まいに近い訪問看護ステーションを探してご案内したりすることが可能です。

仕事を続けていただきたい!
医療者側からできるサポート

知ってほしい指定難病に対する医療費助成と高額療養費制度

目黒さんCIDPを含む難病の患者さんには「難病の患者に対する医療費助成制度」の申請が可能です。ただし、認定が下りるまでは数カ月間、治療費を自己負担しなくてはなりませんので、同一月に支払った医療費の自己負担額が一定金額を超えた場合に、超過分が払い戻される「高額療養費制度」の利用もご案内しています。65歳以上の方でしたら「介護保険制度」が適用になり*、また長期的な入院などで仕事を休む必要がある場合には「傷病手当金」が該当することもあります。ぜひ通われている病院のMSWにご相談ください。

*65歳未満でもパーキンソン病など特定の疾患では介護保険の適応となることがあります。

労働者の方が利用できる支援制度については、厚生労働省「治療しながら働く人を応援する情報ポータルサイト 治療と仕事の両立支援ナビ」(外部リンク)の「支援制度(医療費)」「支援制度(生活支援)」をご参照ください。

「主治医の意見書」によって会社にも理解してもらう

目黒さん患者さんが治療と仕事を両立するためには、会社や上司など周囲の方の理解も必要です。当院では、疾患や副作用が実際の業務にどのように影響するのか、就業継続の可否や望ましいと考えられる就業上の措置や配慮について、「主治医の意見書」として会社に提出できる書面を作成しています。

写真:目黒 りう さん

主治医の意見書は、医師、看護師、MSWが協力して作成し、会社側の産業医や担当者とやり取りをして、会社側に配慮をお願いするという治療と仕事の両立支援の枠組みの一つです。「こういう働き方をすれば、この人は仕事を辞めずに済みますよ」という病院からの意見書を出すことが当たり前になれば、会社側も配置転換などを行いやすくなるでしょう。こうした支援が自然にできるようになると良いですね。
 過去には、癌治療中の患者さんの勤務先の方が、化学療法の副作用の発現頻度や、会社は何に配慮すべきかなどを、患者さんに了承を得て病院へ尋ねに来られたこともありました。主治医やMSWから直接説明することで、会社側の理解度も深まると思います。

「両立支援の流れ」については、厚生労働省「治療しながら働く人を応援する情報ポータルサイト 治療と仕事の両立支援ナビ」(外部リンク)をご参照ください。

中山先生当院は労災病院という特徴から、すべての診療科において、治療と就労の両立支援を実現するようにシステムを構築していますが、こうした患者さんの就労における支援システムのない病院の先生方にも、難病相談支援センターや産業保健総合支援センターなどに患者さんの就労支援を依頼できるということをぜひ知ってほしいと思います。積極的に取り組んでいる当院でもまだ周知が足りていないこともありますので、継続的な啓発・教育が必要であると感じています。

支援機関の「ハローワーク」「難病相談センター」「精神保健福祉センター・保健所」については、厚生労働省「治療しながら働く人を応援する情報ポータルサイト 治療と仕事の両立支援ナビ」(外部リンク)内の「支援機関(就業支援)」をご参照ください。
産業保健総合支援センターについては、労働者健康安全機構のウェブサイトより全国の産業保健総合支援センターを検索いただけます。

脇さん患者さんは仕事や経済的な不安を直接医師に相談してもよいのかな、と躊躇されることもあると思います。当院では新規の患者さんに就労支援に関する問診票(写真❷)をお配りして、患者さんが就労支援を希望するか否かを看護師が予め把握するようにしています。それを基に必要に応じてMSWにつなげたり、就労支援のご案内をしたりします。
情報を提供することで、患者さんご自身が支援を受けたいかどうかを選択し、解決されているようです。まずは病院側・医療者側から情報を提供することが大切なのだと思います。

写真❷
写真:問診票

大事にしたい患者さんの「自立」と「自律」

写真:脇 恩 さん

脇さん患者さんがご自身で治療方法や通院頻度、支援を受けるか否かなどを選択・決定する「自立」に加えて、ご自身で自分のことをコントロールしたいという「自律」の気持ちを大切にしたいと考えています。例えば、訪問看護を受けたくない、自分のことは自分でしたい、という気持ちにも寄り添えるように努めています。

中山先生患者さんの「自律性」の尊重というのは倫理的にも非常に大切なことの一つです。実はご自身で会社と折衝されて解決される患者さんはとても多いです。でも「いざとなったら主治医の意見書を書いたり、会社の産業医と話したりしますから教えてくださいね」と伝えておくことが大切だと考えています。"治療と就労にかかる支援制度とをつなげる場所がある"ということをご案内しておくことが重要なのです。

CIDPの治療を続けられている
患者さんへのメッセージ

脇さん看護師は患者さんとの雑談や、問診票の文字の書き方、歩き方など、さまざまな視点から患者さんの微細な変化に気付けるよう努めています。どんなことでも良いので看護師にお話しいただきたいと思います。患者さんがどのような思いでその治療をされているのか、どのようなことを大切にして社会生活を送られたいのかという患者さんの気持ちを受け止めながら、携わっていきたいと思います。

目黒さんコロナ禍ではリモート勤務によって助かっていたのに、コロナが終息してからは再び出勤しなくてはならなくなってどうしよう、という相談も増えています。「体調の悪い時はリモートでいいよ」というようにしていただければ良いのでしょうが、企業側の事情もありなかなか難しいことが多いようです。仕事をもたれている難病の患者さんが退職を余儀なくされることのないように、主治医の意見書等を活用して柔軟な働き方ができるような仕組みができると良いと思います。
今後も学会発表などを通じて啓発活動をしていきます。患者さんにおかれては、「こんなこと聞いていいのだろうか」と思わずに、困りごとがあればMSWにぜひご相談いただきたいと思います。

写真:中山 貴博 先生

中山先生CIDPに限ったことではないですが、早く診断して、効果の高い薬剤を投与し、症状改善を維持することが重要です。そのときに患者さんがなるべく自立して生活を送れることを目指したいと思っています。
CIDPという疾患名は認知度が低いために、周囲の方々から理解を得ることが難しいことがあるかもしれません。周囲の方々からの視線や反応が心配な患者さんは、「手が使いにくくて病院に行っているの」くらいにとどめておいてはいかがでしょうか。必要な人を除き、周りの方すべてに疾患名を伝える必要はないと思います。
医師だけでなく、看護師、MSW、その他の医療スタッフを含めて一丸となって患者さんの生活をサポートしていきます。困ったことがありましたお気軽にご相談ください。

2024年6月作成